ベートーヴェン学術実践研究会

研究会概要

研究会 概要

 本研究会がベートーヴェンの名前を冠しているのは、ベートーヴェンが音楽史の中で、古典派とロマン派の中間に位置する作曲家で、クラシック音楽の境界線上の中心に位置すると考えるからです。ベートーヴェンは古典派に見られる形式主義を確立し、さらに後期作品では、その形式主義から自由な音楽表現を見出し、ロマン派の作曲家たちにも大きな影響を与えました。つまり、ベートーヴェンを深く知ることは、いわゆるクラシック音楽全般を知ることになるのではないでしょうか。

 クラシック音楽の大きな特徴は、1つの楽曲を数えきれない数の演奏家たちが演奏するということです。そこには、演奏者の数だけ演奏解釈があるということですが、時代によっては、さまざまな解釈があり、その時代の聴衆の好みや演奏スタイルの流行などで変化しています。現代の音楽家たちは、今までの歴史的背景や文献的な資料をよく理解し、明確な解釈に加えて、個性とセンスを盛り込んで演奏に取り組まなければなりません。「音楽」は、楽譜だけでは音楽にならず、演奏されて初めてその魅力を発揮する分野です。演奏者たちは、「音楽」を表現する側であって、解釈の裏側にある「音楽」の本質を演奏そのもので研究発表していると言えましょう。

 しかし、演奏家は、練習時間を膨大に取られるため、演奏を通して得た研究成果を学術研究として発表することがなかなかできません。音楽分野の学会では、たくさんの音楽研究家が文献研究を続け、学術的な研究発表や論文発表をされていますが、演奏家がその分野に足を踏み入れるには、見えない壁を感じてしまう方も多いと思います。

ベートーヴェン学術実践研究会のイメージ
ベートーヴェン学術実践研究会のイメージ

 そこで、本研究会では、演奏実践と学術研究の壁を取り除き、自由で、意見交換のしやすい雰囲気の中で、「音楽」を研究し、またその成果を演奏で発表できるようにしたいと考えています。音楽大学でピアノを専攻し、卒業後、一人で勉強を続けている方や、ピアノ指導者として後進を育てている方は、ピアノという一人で完結できる楽器を専門とした者の常で、多様性をもった活動や多角的に勉強する機会が少なくなっているのではないでしょうか。この研究会には、そのような方たちと一緒に勉強を続け、発表の場を作っていきたいという目的があります。また、ピアノに限らず、声楽、弦楽器、音楽愛好家の方にも参加していただき、多様性を持った研究会にしたいと考えています。

会長:深井尚子

ごあいさつ

ベートーヴェン学術実践研究会のイメージ

 この度、ベートーヴェンの音楽を中心とした演奏実践と研究研究会を創設いたしました。今までにベートーヴェン研究の拠点を作るべく、科学研究費など外部研究助成などに応募しましたが、なかなか実現できませんでした。そこで、私がその拠点となる研究会を作りたいと願い、本研究会発足に至りました。
 いわゆる音楽界における派閥や演奏経験や演奏技術などを超えて、音楽を愛する方々と音楽について意見交換をし、たくさんの異なる解釈や演奏法を互いに知り、また、疑問点などもざっくばらんに語り合える素敵な研究会となるよう、今から夢をふくらませています。
 私は、長年、ベートーヴェン研究を続けており、論文の執筆やセミナーで講師を務めるなど、ベートーヴェン愛に満ちて活動してきました。18世紀、19世紀のヨーロッパの歴史、思想、宗教、社会情勢は、ベートーヴェンの音楽の中に息づいていることを実感し、近代社会のあけぼのとベートーヴェンの音楽が深く結びついていることを感じています。
 みなさんが集うと元気が出るような楽しく、明るく、素敵な研究会にしたいと思っています。

プロフィール

 北海道出身、16歳から東京在住。ウィーン市立音楽院に留学し6年間ウィーンで学ぶ。ハンス・グラーフ、ヨーゼフ・ディヒラー、ユルゲン・ウーデ各氏に師事。ウィーンから帰国後、再度、ロンドンに留学。アンジェイ・エスターハージイ氏にモスクワ音楽院のメソッドを伝授される。
 8年間のヨーロッパ留学を経て、帰国後、東京を中心にウィーン、ミュンヘン、プラハ、トリーア、シュパイヒンゲン、ヴュルツブルクなどで活発な演奏活動を開始する。ベートーヴェンを中心としたプログラムでソロリサイタル、チェロとのデュオリサイタル多数。また、ポーランド国立交響楽団、チェコフィルハーモニー管弦楽団、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団のトップメンバーとの共演等、ソロの他、室内楽にも積極的に取り組む。2012年には、メビウストリオ東京を結成し、定期的に演奏会を開催した。むさしのFMで10年間、パーソナリティを務め、また、音楽誌ショパン、ムジカノーヴァ等にたくさんのエッセイを執筆する。
 2002年北海道教育大学大学院に任用され、2022年まで20年間教鞭をとり、後進の指導とベートーヴェン研究に従事する。現在は、大学を早期退職し、フリーのピアニストとして活動中。

副会長:二宮英美歌

ごあいさつ

 学術の重要性とは何でしょうか?先日、あるコンサートで、会長である深井尚子先生とベートーヴェンの交響曲第5番《運命》連弾版を弾かせていただいた時、コロナ禍で不安な時期を過ごしていた私達に向けて、この作品から癒しと生きる喜びを与えるような大きなエネルギーが溢れ出てくるのを感じ、それが感動の波となってホール中に伝わっていくといった感覚を経験しました。それから《運命》は私の演奏実践研究における重要な1曲となりました。
 また、ある有名な世界的バレエダンサーは、人生の終わりに聴きたい曲として、ベートーヴェンの交響曲第9番を選んでいました。この作品に宇宙の全てを感じるそうです。このように、皆様の中にも、きっと大切なお気に入りのベートーヴェンの曲があると思います。何故、ベートーヴェンの音楽は言葉の壁や時代も超えて私達に感動を与えるのでしょう。文部科学省では「人類は、学術研究を通して新たな知を創造するだけでなく、人類自身の行動の本質の探究を通じて可能性を広げ、その成果に基づく技術の展開により生活の質を向上させ、今日の社会と文明を構築してきた。」として、学術研究の重要性を述べています。
 『ベートーヴェン学術実践研究会』は、ベートーヴェンの音楽を愛する全ての人のための研究会といえます。演奏や教育実践を研究する人の視点から、または学術的に研究する人の視点から等々、多様な視点から自由に語り合い、学び合える場になることを望みます。

プロフィール

 ピアニスト。札幌市出身。愛知県立芸術大学卒業と同時に桑原賞を受賞。その後、東京藝術大学大学院修士課程へ進み、修了後はフランスへ留学。パリ・エコールノルマル音楽学校で高等演奏科ディプロム、及び、コンサーティスト科ディプロムを満場一致で取得。フランスのサン・ノーム・ラ・ブロテッシュ国際ピアノコンクールで第1位グランプリを受賞、スペインのマリア・カナルス国際コンクールでディプロムドノール賞を受賞する等、ヨーロッパ各地で広く認められる。
 これまでに、棚瀬美鶴恵、宮原峠子、田辺緑、マルク・アンドレ各氏にピアノを、パリ・オペラ座管弦楽団のジュヌヴィエイヴ・シモノ氏に室内楽を師事。講習会等で、ジャック・ルヴィエ、パスカル・ドヴァイヨン、ジョルジュ・プリュッデルマッシェール、ジェラール・フレミー氏等、歴代のパリ国立高等音楽院教授陣に師事している。
 現在は、北海道教育大学芸術・スポーツ文化学科音楽文化専攻鍵盤楽器コースの准教授として、後進の指導にあたるとともに、主にドビュッシーやラヴェル、デュティユー等のフランスピアノ作品と、夫である作曲家・二宮毅作品の世界初演等を中心に、日本国内やヨーロッパ各地で数多くの演奏活動を続けている。日本音楽学会、日本音楽教育学会、日本音楽表現学会、日本ピアノ教育連盟、札幌音楽家協議会会員。

副会長:大久保光哉

ごあいさつ

 この研究会は、ベートーヴェンのピアノ音楽の研究を目的に設立されました。しかし、ベートーヴェンは他の音楽領域(声楽や管弦楽など)にも数多くの優れた作品を残しています。この研究会では、声楽家としての側面からベートーヴェンの作品を研究・実践し、みなさまと共有してまいりたいと思います。再現芸術としての音楽は、作曲者、演奏者、聴衆の三者の関係により初めて成立する分野です。ベートーヴェン自身や彼の生きた時代的背景を研究し演奏することの重要性は言うまでもありませんが、現代の聴衆におけるベートーヴェンの演奏スタイルの模索も必要なことと考えます。

プロフィール

 慶應義塾大学法学部卒業。東京藝術大学大学院博士課程および文化庁オペラ研修所第10期生修了。文化庁在外派遣研修員としてスウェーデンに留学。音楽博士。
白糠町文化奨励賞受賞。二期会会員。
 新国立劇場では、こけら落とし公演《TAKERU 建》や《こうもり》など多数の公演、他にも二期会・読売交響楽団・日生劇場共催公演《リア》、横浜みなとみらいホール《竹取物語(沼尻竜典作曲》、KAAT神奈川芸術劇場《カーリュー・リヴァー》などオペラ役者として話題作に数多く出演している。NHK【FMリサイタル】【名曲リサイタル】【BSプレミアム“クラシック倶楽部”】、読売テレビ【夜の音楽会】に出演。
 我が国における北欧歌曲の第1人者として、レークサンド音楽祭出演や日本フィルハーモニー管弦楽団とのシベリウス歌曲の演奏など北欧歌曲の普及にもつとめている。
さらに、合唱指揮、オペラ演出や演奏会の企画・構成などマルチな活動を展開している。
 現在、北海道教育大学岩見沢校准教授として後進の指導にもあたっている。